映画「鬼滅の刃」のクライマックスとなる猗窩座と煉獄さんの戦い。炎と雪がぶつかり合う素晴らしい映像でした。
そして、この戦いで言う炭治郎のセリフは、敵である猗窩座の失った心に、ズーンと突き刺さる言葉でした。
以下、ネタバレを含みますのでご注意ください。
猗窩座と煉獄さんの戦いは、守り抜いた煉獄さんの勝ち
この少年は、弱くない。侮辱するな。君と俺とでは価値基準が違う
猗窩座にはっきりと宣言する煉獄さん。これ、猗窩座の過去への対比になっています。とても良い話ですから本編を楽しみにお読みください。
煉獄さんは、強さのみを追い求め、強さのみが価値基準となっている猗窩座に対し、炭治郎が強いと言い切り、どんなことがあっても鬼にならないと言い切るのです。
それに対して、過去の猗窩座は、己の弱さに負けて、鬼になった男でした。猗窩座が、鬼になった経緯は、とても悲しく、同じような出来事が起きてしまったら、鬼になる人は多いでしょう。そして、煉獄さんと炭治郎は、どんなことがあっても、鬼にならないという心の強さを持っていたのです。ここでいう鬼は、鬼舞辻無惨によって、鬼化されるだけでなく、人の心を失う残虐さのことを言います。
炭治郎の絶叫:煉獄さんの勝ちだ!
この炭治郎のセリフ。猗窩座の心をえぐるセリフなんです。とはいえ、猗窩座は、記憶を取り戻すまで、その事には気づきません。
煉獄さんは、誰も死なせなかった。戦い抜いた。守り抜いた。
鬼滅の刃
なぜなら、猗窩座は、約束した人を守り抜くことができなくて鬼になったから。
煉獄さんと猗窩座は、人より強く生まれたのに、守り抜くことができた煉獄さんと守る抜けなかった猗窩座という対比になっています。
煉獄さんの呼吸は、炎の赤。猗窩座の技は、花火と雪。ここ、映画では、特に美しく描かれており、手に汗握る名シーン。猗窩座の技は、すべて、守れなかった妻への思いを込めたものだったのです。
鬼滅の刃155話「役立たずの狛犬」
猗窩座の過去が明かされる第155話のタイトルは、「役立たずの狛犬」。
このタイトル、猗窩座の本名である「狛治」のことを意味しています。役立たずというのは、自嘲を込めた猗窩座の思いでしょう。
病気の父と暮らしていた狛治は、父のためにスリをして薬を買います。当時の薬は、高価で、普通に働くだけでは変えない値段。
そして、狛治は、捕まるたびに、棒で叩かれ、スリの罪として、入れ墨を入れられます。この入れ墨は、鬼になってから、全身に広がり、自分の罪を許せないことを示していると思います。
ところが、守りたい・治したいと願っていた父親は、息子が罪を重ねるつらさから、自殺。守れなかった一人目は父親でした。
狛治へまっとうに生きろという遺書を残して・・・
「真っ当に生きろ まだやり直せる。俺は人様から金品を奪ってまで生き永らえたくはない。迷惑をかけて申し訳なかった。」
父をなくした狛治は、自暴自棄となり、江戸を離れて、さまようことになります。
そこで、出会ったのが、素流師範の慶蔵。ここで、慶蔵にボコボコにされることで、罪人としての狛治を退治してもらい、道場に住むことになりました。
ここで、狛治は、慶蔵の娘「恋雪」と出会うのです。恋雪は、病弱で、いつまで生きられるかわからない体。同じく病弱だった父と似ていることもあったせいか、おとなしく面倒を見ることに。
面倒がらず、あきらめず、素直に恋雪を看病する狛治。いつしか狛治に惹かれる恋雪。ここでの生活は幸せだったことでしょう。
未来が見えなかった恋雪に明るい未来を約束する狛治。
「いつもごめんね」「今夜は花火も上がるそうだから行ってきて…」
「そうですね 目暈が治まっていたら背負って橋の手前まで行きましょうか」
「今日行けなくても 来年も再来年も花火は上がるから その時行けばいいですよ」
そして、慶蔵は、狛治に言います。
「この道場継いでくれないか 狛治 恋雪もお前のことを好きだと言っているし」
お前は、狛犬と同じで、守るものがなきゃダメなんだよなと言ってくれていた慶蔵。
罪人だった狛治も、恋雪と同じように、自身の未来が見えなくなっていたのです。そんな彼に、未来をくれた恋雪とのせつない恋。
鬼滅の刃
狛治は、二人を「命に代えても守りたい」と誓うのです。父を失い人生に絶望し未来を失った男は、愛する妻と父=守りたい人を見つけ、希望に胸を膨らませました。
はい、俺は、誰よりも強くなって、一生、あなたを守ります。
恋雪のプロポーズを受けて、誓ったこのセリフ。この誓いが、後の猗窩座を永遠に縛ることになってしまいます。
この喜びが、地獄に落ちるのは、狛治が、父の墓に祝言を上げる報告に留守したいたときでした。
炭治郎・縁壱といい、つかの間、留守にしていた間、愛する人を失った悲劇は、数多い。ただ、鬼に愛する人を殺されたならば、鬼を恨めばいい。人間に、愛する人を殺された場合、誰を恨めばいいのでしょうか?
これが、サブタイトルとなっている役立たずの狛犬。
自暴自棄となり、愛する二人を毒殺した隣の剣術道場の門下生を皆殺しにします。師範であり義父の慶蔵が教えた守る拳で、人をあやめ、鬼となった狛治。その狛治を本当の鬼にした無惨に対しても「もうどうでもいい」とつぶやきます。
そして、無意味な殺戮を繰り返す猗窩座となり、強さだけを求めるのです。
「守りたかったものはもう何一つ残っていないというのに」「家族を失った世界で生きていたかったわけでもないくせに」
鬼滅の刃 第156話「ありがとう」殺したかったのは自分
そう、狛治が、弱い者を嫌い、強者にこだわったのには、こんな悲しい過去があったのです。
二度目の戦い。炭治郎に首を斬られた猗窩座。それでも首を再生し戦う猗窩座。そこに、刀を失った炭治郎渾身のパンチが炸裂。このパンチで、師匠の慶蔵による拳を思い出します。
猗窩座が、本当に、弱いと思っていたのは、愛する人を守れなかった・失って自暴自棄になった自分だったのです。
炭治郎の歌では、
失っても失っても生きていくしかない。どんなに打ちのめされても守るものがある
でも、猗窩座には、守るものがなかった・・・
そして、自分自身に滅式を打ち込みます。彼が殺したかったのは、約束を守れず、自暴自棄になった自分。
それでも、無惨は、死ぬことを許さず、戦うことを命じます。まさにパワハラ上司ですね!
そこに現れたのは、慶蔵と恋雪。
死んでも見捨てない。
狛治さんありがとう。もう充分です。おかえりなさいあなた
二人の愛に包まれ、猗窩座は、狛治=人に戻ることができました。
炭治郎の言う煉獄さんは、守り抜いたという言葉。これこそ、猗窩座にとって、最もつらい言葉だったのです。
守れなかった・・・そもそもその場にすら居られなかった猗窩座。映画「無限列車編」での猗窩座には、こんな悲しい過去があったのです。役立たずだと思っていた彼を救ったのは、恋雪のありがとう。無惨さえ居なければ、もっと早く罪を重ねる前にと思わずには居られません。