黒龍の柩:近藤勇と土方歳三の別れに泣く

北方謙三の黒龍の柩。新選組の土方歳三が、幕末の荒波の中で、夢と生き方を探す物語。

第一部(上巻)は、幕末の京都で、新選組の戦う意味・将来の道を土方歳三は探り続ける過程を描きます。

第二部(下巻)は、鳥羽伏見の戦いで負けて、江戸に帰った歳三が、新たな夢に向けて奔走し、五稜郭に渡った後のことを描きます。

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北方謙三の描く新旧の分かれ道:黒龍の柩とは

山南敬三、徳川慶喜、勝海舟など様々な人物と交流する歳三ですが・・・私がもっとも泣いたのは、近藤勇と土方歳三の友情。

正直、上巻は、少しまどろっこしい感じがあります。しかし、後半の怒濤の展開に向けての静と動と思ってください。

幕末の時期。古くなり滅びゆく幕府を守ろうとするもの。その中で新たな夢を見つけて実現に向けて動き出す歳三。

以下は、少しネタバレになりますので、気になる方だけ、お読みください。

土方歳三の夢と近藤勇の誇り

江戸に戻った徳川慶喜と幕府。もちろん、新選組も江戸に戻ります。しかし、時代の流れは、薩長を軸とした新政府軍へと移り、トップたる徳川慶喜に戦う気がありません。

徳川慶喜の意志は、不戦。NHK大河ドラマ「せごどん」の慶喜と似た思想。黒龍の柩の方が、昔のお話ですけどね。

黒龍の柩では、徳川慶喜自身が、新たな夢を抱きます。その夢を共に実現しようとする歳三・勝・小栗・村垣たち幕府の要人。

その仲間に、近藤勇を引き込むことはできないかと問う勝海舟に歳三は、難しいというよりできませんと答えます。

そして、作戦のために、近藤を利用しようと考え、「一度だけ男でなくなります。」宣言。

ここから、時折、近藤と土方の別れの物語が始まります。

●京都の治安を守り続けた誇りこそが、新選組の生きる道。それを捨てるくらいなら、旗を守り続けて死のうと考える近藤。

●無理だとわかっていても、新たな希望を実現するために、近藤と一緒に行きたいと考える歳三。

言わぬが花の二人

お互い、すべてをわかっているんですよね。

いよいよ、土方は、近藤勇率いる新選組を利用した作戦を実行するため、近藤に作戦を伝えます。そして、真意を言いかけた歳三を近藤は遮ります。

言うな歳。新選組局長を貫こうという者に、お前のいうことは酷すぎるという気がする。本当は、おまえは酷い男ではない。それは俺がよく知っている。

似合うだろう。近藤さん。俺のこの洋服。

似合うな。おまえは、そういうものがよく似合う。総司にも似合ったかもしれん。しかし、俺には似合わんな。

近藤さんが、洋服か。土方は、低い声で笑った。

見たくなかろうが。歳?

新たな夢・希望のために。羽織袴から洋服に変更した歳三。洋服の似合わない近藤勇。北方謙三氏は、黒龍の柩の中で、洋服=新時代、新選組の隊服=旧時代を示します。

そして、新選組局長のままで生きたい(たとえ死に向かっていても)近藤勇は、歳三に、何もいわせずに、新時代を否定します。聞いた上で断るのではなく、言わせないようにするというのが、彼の優しさと頑なさ。

戦国時代・幕末・・・時代の変わり目は、時代に合わせて変わる人物とあえて変わらずに殉じる人物が登場。その滅びの美学こそが人の心を打つところだと思います。大河ドラマ「真田丸」では、真田信繁が、戦の時代は終わったという家康に、「百も承知」と返事。

同じく、わかっていても戦う・滅びる=そうでなければ、誠の旗のもとに、散っていった者たち・斬ってきた者たちが浮かばれないという思い。近藤勇の潔さに震えます。

しかし、歳三が新たな夢を見つけ、動いていることを邪魔しようとはしません。新選組の中でも新たな時代に向き合える者=洋服を着ている者は連れて行けと言い、歳三を送り出す。歳三は、何がなんでも・・・生きようと粘ります。

そして、いよいよ旅立つ歳三。死ぬな・生きてくれと願う歳三をやんわりと拒絶します。

なにも言うなよ。歳。俺は何も聞きたくない

それでも、いつか語りたいという歳三。死んでほしくない。このままでは、俺は自分が許せないと。

ここでの近藤勇の返しが絶品。泣けてきます。

気にするな。俺と歳の仲だ

黒龍の柩・・・もう、ここだけでお腹いっぱい。勧進帳の弁慶と義経の名場面に匹敵するような友情・志・夢・誇りの物語。

新たな夢のために突き進む男と、理解して快く送り出す男。それでも、過去の栄光・歴史を守るために、新たな夢には乗らなかった男。

近藤と別れた後は、東北・五稜郭での戦いが始まります。これは、これで多くの物語があります。大鳥・村垣・勝・榎本達・・・料理人久兵衛と魅力ある男たちがたくさん出てきますから、ぜひ。お読みください。

男の友情?・・・に泣きたい方は、読む価値あり!

北方謙三の描く美しい男たちの物語でした。


 

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