嫉妬の鬼となった黒死牟は、強さより心の強さ&優しさを求めた方が良かったはず!

兄上こと黒死牟は、鬼滅の刃に出てくる鬼の中で、ラスボスの無惨に次ぐナンバー2。上弦の壱という地位を与えられ、戦国時代から生きている男。味方の剣士達をはるかにしのぐ剣技と再生能力を持つ怪物です。

しかし、彼の生涯は、非常に悲しい。元は、鬼殺隊でも2番目の強さを持つ剣士であり、月の呼吸を使いこなす心技体すべてに優れた男だった。その彼が、なにゆえ、鬼とならねばならなかったのか。それは、骨まで焼き尽くすような嫉妬の炎。ネタバレにご注意ください。

天才の弟に嫉妬した強き兄、継国厳勝(つぎくにみちかつ)の悲劇

彼が、人間だった時の名前は、継国厳勝(つぎくにみちかつ)。武家の家に双子の長男として、生まれ、跡取り息子として、将来を期待されていました。この名前も父が、勝ち続ける強い男になるようにと命名。

ところが、不吉として避けられていた双子の弟「縁壱(よりいち)」が、兄以上の天才だったことから、厳勝物語の悲劇は始まってしまうのです。

優秀な兄と天才の弟

双子の弟だった縁壱は、額に痣があること、双子が不吉と言われていたことから、殺される運命でした。それを双子の母親が、猛烈に反対してかばうことで、なんとか命を助けられました。ただし、不吉&家督争いが起きないように、生きるための条件は、十歳になったら寺に出して出家させるというものでした。つまり、弟の縁壱は、生まれてすぐに、何の罪のなく、存在を否定されたのです。そんな彼は、誰とも言葉を喋らず、母と兄以外には、ほとんど関わらず育ったのです。

うまれつき

最初、弟は、哀れむべき存在だった

そんな弟を兄は、可哀想にと哀れみます。父に、弟にかまうなと厳しく叱られながら、凧揚げやすごろくで遊んであげたり、何かあったら俺を呼べと「外れた音しか鳴らない自作の笛」をあげています。そうなんです。兄上は、自分より劣る者に対して、すごく優しいいい兄貴。そんな兄に、縁壱は、懐きますし、尊敬しているのです。ところが、弟は、兄をはるかに超えるとてつもない剣技の天才だったのです。

みようみまねで剣を取れば、黒死牟が、一太刀もいれられない指南役をあっさりと倒す。なぜなら、彼は、相手の体を透かして筋肉の動きを見ることができる能力を備えていたから。相手が動く前に、筋肉や心肺の動きを読み取れるのは、剣や格闘家にとって、どんなに有利なことか。達人であればあるほど分かると思います。

さらに、その能力で、母親の体が弱り、左半身が悪いこともわかっていました。そのため、遊んだり、稽古をしていても母を見かけると飛んでいって、母を支える優しさを持っています。

兄より優れた弟

出典:鬼滅の刃

天才かつ優しい人格者の弟

  • 剣を取れば、天才
  • 病気の母を支える優しい子

自分より劣るかわいそうな弟と哀れんでいた縁壱は、天才かつ性格も優しい人格者だったのです。

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剣だけならまだしも、母への優しさをしった幼い厳勝は、嫉妬で、全身がやけつく音を聞き、鼻血を出すほどに、弟を憎悪。ここから、黒死牟は、抑えることのできない嫉妬とともに生きる人生を送ることになるのです。

優れた弟を持った兄の悲劇は、旧約聖書にあるカインとアベルの時代からある永遠のテーマ。兄弟ってほんとに難しいですね。

エデンの園を追放されたアダムとエヴァの間に、兄カイン、弟アベルの二人の子供が生まれた。兄カインは土を耕す者となり農作物を、弟アベルは羊飼いとなり肥えた初子を、それぞれ神へ献げるが、神は弟の捧げ物しか受け取らなかった。兄カインはその仕打ちに怒り、弟アベルを殺害する。人類初の殺人である。【カインとアベル:創世記 4章】

主に愛されたアベルに嫉妬したカイン。少年ジャンプは、ケンシロウに嫉妬するジャギ(北斗の拳)。ハインツに嫉妬するクラナッフ(キャッツアイ)など多くの兄弟のマンガを通して、嫉妬と怒りの物語を夜に出しています。それだけ、読まれるニーズがあるということ。

歴史でも、源頼朝・義経、徳川家光・忠長と嫉妬や怒りが残っています。そして、特に、悲劇なのは、優秀な弟を持った兄。兄の方が優秀であれば、そこまで嫉妬せずに、兄ちゃんスゲーとなるのですけどね。サッカーの天才、アルゼンチンのディエゴ・マラドーナの弟は、兄についてこう言っています。「兄ちゃんになろうなんて思わないよ。兄ちゃんは超人なんだぜー。スゴイんだぜー」と嫉妬ではなく、素直に、満面の笑顔と尊敬。

兄厳勝と弟縁壱、二人の兄弟が望んだこと

母がなくなり、家を去った縁壱。そのまま、永遠の別れになっていれば、良かったものの、二人は出会います。交わらなかった二人の兄弟は、鬼が原因で相まみえることになるのです。家を継ぎ、立派な男になっていた厳勝は、鬼に襲われて、部下を失います。そこに現れたのが成長した縁壱。なんと、大人になった縁壱は、強く・非の打ち所のない人格者となっていたのです。

この瞬間、兄上は、妬みと憎しみの鬼となりました。実際に、鬼となったのは、ずっと後ですが、鬼になる素地は、この時にできていたといえるでしょう。そして、縁壱のように強くなりたいと願い、妻子を捨てたのです。

望む者に望む才が与えられればどんなに良いか

  • 厳勝は、幼き頃、この国一番の侍になりたいと願い、長じて弟の強さを知った今、その強さと剣技を手に入れたいと望みました。そのため妻子を捨てました。
  • 縁壱は、兄の願いを知り、ならば、二番目の侍になると言います。そして、成長した縁壱は、愛する妻と夫婦になります。彼の望みは、ただ、妻子と普通に暮らすことだけを望んでいたのです。ところが、鬼によって妻子を殺されて、鬼殺隊に入ります。

そんな兄上の思いは、炎で焼かれるよう。

望む者の下へ望む才が与えられればどんなに良いだろう。縁壱は、剣の話をする時、ひどくつまらなそうだった。

悲しいですね。兄、厳勝は、縁壱が望んでいた妻子との暮らしを捨てて、最強の剣士を目指します。最強の剣士たる縁壱は、自分が望んでいた妻子との暮らしをなくしています。

そして、縁壱は、「兄の望むことを否定」してしまうのです。他の剣士より抜きん出て強くなった兄弟。その技の継承が絶望的となり、忘れ去られることを嘆く兄に対して、その極めた剣技をあっさりと捨てようとします。

私たちは、それほどたいそうなものではない。長い長い歴史のほんの一欠片

兄の願い、最強の剣技を身につけること=それを私達はたいしたことないという縁壱。兄にとっては、妻子も捨て、己のすべてを賭けてきたこと。それをたいしたことではないと片付ける弟。しかも、その弟は、自分よりはるかに強いのです。ああ、書いていて、兄上の怒りと嫉妬が理解できた気がいたします。こう言われてしまったら、どうしようもありません。強い剣士たる誇り・剣技を極めたいという向上心が否定された気になるでしょう。自分が特別だという傲慢な意識をもっていた兄上。それでも強い向上心を持ち、剣技を磨いていた男が、ダークサイドに、足を踏み入れた瞬間でした。

さらに、彼らには、短い寿命という壁も立ちはだかります。後に縁壱だけは、その寿命すら乗り越えるのですけどね。

厳勝は、最強の剣士を望んで妻子を捨て、最強たる縁壱は、妻子を失っています。お互いに、望むものを永遠に手に入れることができないという不幸な兄弟になってしまったのです。しかもお互いが何よりも望む大切なものを持っている方が、あっさりと捨ててしまうのですから、上手くいくはずがありません。

厳勝が目指した者

国一番の侍を目指していた男は、妻子を捨て、人であることを捨て、侍であることを捨てて鬼になったのに、道を極めることはできずに終わります。

そんな兄上の最後は、

「私はただ、縁壱、お前になりたかったのだ」

お前になりたかった

外れた音しか鳴らないがらくたの笛

縁壱は、兄にもらったこの笛を生涯、持ち歩きます。そして、弟が死んだ後、兄もまた、この笛をずーっと持ち続けるのです。

弟は、兄が本当に好きで尊敬していました。だからこそ、この笛を持っていたのです。それに対して、兄は、弟を死んでくれ・嫌いだ・嫉妬で骨まで焼き尽くすという心理状態。それでも、弟を追い続け、少しでも弟の縁壱に近づきたいがために、この笛を持ち歩いていたのでしょう。外れた音しか鳴らない。その言葉が、どこかで、外れてしまった二人の思いを象徴しているようです。

もし、外れた音ではなく、きちんとした音が出れば・・・無惨と縁壱の戦いにおいて、縁壱の笛に厳勝が、応えることができたでしょう。二人で戦えば、無惨を逃がすこともなかったかもしれません。

二人の兄弟で違ったもの

強さだけを求めた兄に対して、優しい人格者だった弟。そして、そんな心のありようゆえに、兄は、弟に追いつけなかったのではないでしょうか。

何者にもなれず、何も得られなかった兄は、最後に弟に問います。教えてくれ縁壱と・・・その答えは、無惨との戦いにおいて、いくつかの場面で語られているのだと思うんです。

鬼になれと勧誘する兄上は、こう言います。

命云々のつまらぬ話をしているのではない。鬼となれば、肉体の保存・技の保存ができるのだ。

柱の悲鳴嶼行冥は、答えます。

我らは、人として生き、人として死ぬことを矜持としている。貴様の下らぬ観念を至上のものとして他人に強要するな

縁壱が天才であることを知った厳勝は、こう思います。

才覚を認められていた私は、努力をすればするだけ力をつけた。しかし、それは亀の歩みに他ならない。類いまれなる神童の前では

この思いには、ぜひ、煉獄さんの持つ強さを教えてあげたい!

常中は、柱への第一歩だからな!柱までは一万歩あるかもしれないがな! 昨日の自分より確実に強い自分になれる!

さらに、煉獄さんは、強さというのは、肉体だけではない。心の強さを主張し、炭治郎に心を燃やせと言い残します!

『老いることも死ぬことも人間という儚い生き物の美しさだ 老いるからこそ 死ぬからこそ 堪らなく愛おしく尊いのだ 強さというものは肉体に対してのみ使う言葉ではない この少年は弱くない侮辱するな』

鬼滅の刃、最後、炭治郎は、煉獄さんの意志を受け継ぐのです。無惨の問い

【死んだ者たちの憎しみの声が聞こえないのか!なぜお前だけが生き残るんだと叫んでいるぞ】

炭治郎は、心の強さ・優しさによって、無惨の問いに打ち勝ちます。

そんな人いない。自分ではない誰かのために命を賭けられる人たちなんだ。自分たちがした苦しい思いや悲しい思いを他の人にはしてほしくなかった人たちだから。

そう、厳勝兄上が、何も手に入れることが叶わず、何も受け継がれなかったのは、自分が強くなることしか考えていなかったから。縁壱の剣技・人格に打ちのめされて、人のために命を賭けることができなかったから。それは、天才に出会ったことがないからではないはず。天才に出会おうがどうしようが、人は変われるはず。

あれだけ、炭治郎に対して、嫉妬や怒りを持っていた伊之助は、炭治郎・善逸・おばあさん・しのぶ・アオイといった人の優しさに触れることで、自分より優れている炭治郎を認めます。泣きながら炭治郎と戦う伊之助なんて、涙なしに読むことが出来ないシーンです。

そうならなかったのは、おいたわしや兄上・・・

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