刀鍛冶の矜持、いっしん虎徹こと鉄を愛する長曽禰興里の生涯

この本は、江戸時代の刀鍛冶として活躍した長曽禰興里(ながそねおきさと)のお話です。珍しく戦国武将ではなく、刀鍛冶を主役とした小説です。作者の山本兼一氏は2014年2月13日に亡くなられました。

いっしん虎徹には、職人として一生懸命生きる人間の含蓄ある言葉がふんだんに登場します。

●虎徹の刀はニセモノが多い

江戸時代の刀でありながら、古刀のように実戦的で人気があり、虎徹は贋作が非常に多いことで有名です。在銘品(虎徹と銘のある品)のほぼ100%が偽物とさえ言える。刀剣業界には「虎徹を見たら偽物と思え」という鉄則があるとのこと。

なんでも鑑定団で出てきた虎徹

新選組の近藤勇と虎徹

新選組の近藤勇が、「今宵の虎徹(こてつ)は血に飢えている」と言ったことでも有名な刀です。もっとも虎徹の刀は、当時から高価で貴重なことから大名クラスが持つもので一介の浪士が持てるものではなく、源清麿(みなもとのきよまろ)の刀を偽名して虎徹だといっていた とも伝えられています。

日本の名刀たち

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いっしん虎徹

この本の虎徹は、腕の良い越前の甲冑師でしたが、戦乱の世が終わり甲冑師としての仕事が少なくなったため、甲冑作りから刀作りへと転換します。

しかし・・・虎徹は、今まで甲冑師でした。確かに刀にも少しは縁がありましたが、刀作りは素人です。ここから、虎徹の刀への遠い道のりがスタートします。

刀を作るには何をしなければいけないのか・・・虎徹が考えた結果、思いついたことは、刀の材料作りから学ぶことです。

出雲の鉄作りと刀鍛冶

やるとなったらとことんやるのが、虎徹の職人魂。刀を知るには、まずは、鉄を知らねばならぬと出雲の鉄作りの現場に向かいます。

ここで、たたら=古代の鉄作りの奥深さに打ちのめされる虎徹、たたらの当主としての良き出会い、虎徹を敵と命を狙う弟子の登場と刀鍛冶としての波乱の人生が幕を開け転がっていきます。

虎徹がたたら製鉄で知ったのは、鉄作りの工夫・労力です。そして、虎徹の吐く鍛冶と鉄に対して向かい合う気持ちが凄まじい。

「一生懸命ひたひたと命を削ってさえ、うまく扱いきれぬのが鉄だ。それを承知でなお励むのがわしら鍛冶だ」

「ただただ鉄のことだけ考えろ。休むなら鉄を見て休め、遊ぶなら鉄で遊べ。さもなければよい鍛冶になどなれぬわい」

●たたらによる製鉄=砂鉄から鉄を作る。

仕事は下手が良い

江戸に出た虎徹は、兼重という師匠の元で刀鍛冶の修行をします。

その師匠が、いい言葉を吐きます。

「仕事は下手がいいのう。不器用で下手な男だと思っていたが、ますます下手になりおった。良いことだ。下手がいい」

なぜ、下手がいいのでしょうか?その答えは、ぜひ、本を読んでお確かめください。

才市叔父と虎徹:職人の誇り

虎徹には、江戸で恩人となった叔父がいます。江戸に出てきた虎徹を将軍家お抱えの鍛冶師となり、金蔵の鍵を作っていた叔父が、虎徹の野心のために死ぬことになります。

この時の才市叔父の職人としての矜持を知り、虎徹は考えます。

「人はなぜ生き、なぜ死ぬのか?」「生きる値打ちとは何か」「刀の意味とは」

虎徹は、日本一の刀を打ちたいと願い、その迸る野心をもって刀を鍛えます。ところが、その野心を持っているがゆえに様々な障害にぶつかり挫折を経験することになります。

妻の病気・恩人の死・弟子の迷い・自身の迷い・刀を作る意味、それは、いつの時代も変わることのない人間の生き様に通じるのではないでしょうか?

そもそも、刀は殺人の道具です。その刀が一方で美しさ・威厳・権威など様々な意味を持ちます。虎徹が刀を作った時代は、戦国時代が終わり平和な江戸時代でした。

平和時代に刀は何のためにあるのか?自分の生きる意味は何かを刀作りを通して虎徹は己に問いかけます。現在の世の中も自分の仕事が何のためにあるのか?何のためにやっているのか迷うことが多いのではないでしょうか?そんな方はぜひこの「いっしんこてつ」をお読みください。

妻「ゆき」

虎徹には、愛妻「ゆき」がいます。虎徹の一番の理解者であり、刀作りの手伝いも行います。

この「ゆき」と虎徹の関係は、現代の企業戦士と妻との関係かもしれません。しかし、ゆきは虎徹を心から尊敬して愛することで何度救ってくれたことでしょう。

日本刀の美しさ

美しい芸術品。もし、日本刀の展覧会があれば、この小説を読み出かけてみてください。その輝き・妖しい美しさ・刀を彩る装飾品の豪華さ。

日本人ならば、その美しさに心躍らせることでしょう。

技術立国として栄えた日本、職人を大切にする日本、職人の誇りが、日本刀という比類のない芸術品を見ていると心が震え・背筋がピンと伸びるように伝わってきます。

●日本刀の職人達=刀作り

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